「大きくなったら、芭唐ちゃんのお嫁さんになる!」

「じゃ、俺はのためにプロ野球でいっぱい金稼ぐな!」



そう言って、彼は私にプラスチック製のピンク色のリングをくれた


幼い頃に誰もが一度はやったであろう『お嫁さんごっこ』
確かな約束じゃないけど、私は今でもあなたのお嫁さんになりたいよ


ねぇ、あなたは私をどう思ってる・・・?







Promise








1番近いハズだった幼馴染の私たちの距離
そのはずが、いつの間にか私と芭唐の距離は果てしなく遠くなった



華武高で4番を背負うエースの芭唐
それに引き換え、マネージャーでくらいしか何も出来ない私



きっと、芭唐はプロになって野球の世界に入っちゃうんだろう
ねぇ、その時に私はあなたの隣にいる?
あの頃の約束は、果たされないまま私たちは離れちゃうのかな




「・・・スキだよ・・・」




そっと一人、部屋で写真に向かって呟く
机の上には私と芭唐、そしてもう一人の幼馴染の冥ちゃんが
笑顔で笑ってる写真がフレームに入れて立ててある


でも、私の知らないうちに芭唐と冥ちゃんは仲違いしちゃって
出会えばケンカばっかりなんだって聞いた
あんなに仲良かったのに・・・そのうち私もいらなくなっちゃうの?


私は胸元に下げたネックレスを見つめた
芭唐にもらったリングは成長した私の指にはもう入らないけど
芭唐との大切な思い出としてチェーンに通してネックレスにしてある


ため息を一つ吐いて、私はコンビニに行くために家を出た





+++





「・・・あ、芭唐」






たまたま彼の家の近くにある公園を通った時、芭唐を見つけた
声・・・かけようかな、そう思って一歩踏み出そうとしたけど
芭唐が一緒にいるのが女の子だと気付いて、私の体はその場で固まった




「・・・カノ・・・ジョ?」




楽しそうに笑ってる芭唐たちを見ていると
ふいに私の頬に熱い何かがこぼれた



何だ・・・私ってば告白する前に失恋決定?




しばらくその場から動けなくて呆然と立ってたら
後ろから誰かに肩を叩かれて振り向いた




「・・・?とりあえず何してんだ」

「冥ちゃん!え、ぁ・・・コンビニ行く途中」

「そうか・・・俺も行こうと思ってんだけど、一緒に行くか?」

「ぅ・・・うん!一緒行こ」




偶然、出会った冥ちゃんの申し出に
私はさっきの芭唐のことを一時でも忘れられそうな気がして
冥ちゃんと他愛もない話をしながら歩き出した





+++





コンビニで買い物を済ませて出ようとした時
入れ違いに芭唐が入ってきて目が合ったけど、すぐ逸らしてしまった
だって・・・失恋相手に普通に出来るほど私は出来た人間じゃないよ


芭唐も私の態度を不思議に思ったのか
その後をどう切り出していいのか迷っていたようだった




「・・・?」




会計を済ませたらしい冥ちゃんに声をかけられて、私の体はビクッとした

その反応を見た芭唐は、私と冥ちゃんを交互に見て
それから彼は口を開いた




「何、一緒に買い物?お前ら付き合ってんの?」

「・・・とりあえず、お前に関係ない」




行こう、と冥ちゃんに腕を引かれて
私は芭唐の前を泣きそうになるのを必死に堪えて横切った




「付き合ってんなら学校ででも言ってくれりゃいいのに」




プゥッといつものようにガム風船を膨らませて芭唐が言った

・・・何でそんなコト言えるの・・・?
私なんかが話しかけづらいくらい遠くに行っちゃったくせに




「・・・ば、芭唐だって私に彼女の報告したことないじゃない」

「・・・・・・?」

「冥ちゃんとは偶然そこで出会っただけよ!」




いきなりの私の逆ギレに戸惑う2人を無視して
私はネックレスを引きちぎると芭唐に投げつけた






「私の気持ちも知らないくせに・・・っ!!」





我慢できなかった涙が私の頬に流れた
感情の高ぶったまま、冥ちゃんの手を振り払って私は走り出した





+++




家まで辿り着くと、乱れた呼吸をどうにか整えて机に伏せた


芭唐に勘違いされてイヤだった・・・
あんな酷いことしちゃって芭唐はどう思っただろう
完璧に嫌われちゃったかもしれない・・・


ふと視線を外すと、写真立ての笑顔の私たちが目に入って
なぜか余計に寂しさを感じて、私はそれを掴むと引き出しの中に押し込んだ





「・・・芭唐の・・・バカ・・・」

「そりゃ悪かったな」




一人しかいないはずの私の部屋で、独り言に返事が返ってきた
その声の主はもちろん大好きなバカな芭唐で
私は驚きの表情のまま、部屋のドアの方に振り返った




「・・・なんでココに入ってこれたのよ」

「普通におばさんが入れてくれたけど」




お母さん!何で許可もなく入れちゃうのよ!!





「・・・・・・コレ」




そう言って芭唐は私にさっき投げつけたリングを握らせた



「・・・お前もまだ持ってたんだな」

「・・・・・も?」

「あれ?言ってなかったっけ?これちゃんとしたペアリングなんだぜ」



ホラ、と言って芭唐も胸元から青いリングの下がったネックレスを取り出した
その事実に私は驚く以外できなくて
ただただ芭唐に手渡されたリングと彼のリングとを見るだけだった



「でもキレたからって投げつけるなよな」

「・・・だって・・・それにもうこのリングなんかいらないでしょ」



さっき見ちゃったんだもん・・・公園で彼女と話してるとこ
そう言うと、芭唐は思いっきり笑い出して、それから言った



「あれ彼女じゃねーし!俺が好きなのはずっと昔からだし」

「・・・ぇ・・・」

にだからこのリングやったんだぜ?結婚しようなって約束しただろ?」




絶対忘れてると思ってた
リングをくれたことも、結婚しようね、なんて子供の口約束も




「俺が結婚したいとか思う女はだけだ」




真剣な表情でそう言ってくれる芭唐が嬉しくて
私は止められない涙もそのままに、彼の胸に抱きついた



「結婚できる年になるまであと2年だから、それまでは付き合っとくか♪」



そう言って、芭唐は私の涙を指で拭うと、そのまま口唇にキスをした





幼い時からずっとずっと変わらずあなたを愛してたの
ねぇ、もうあの時の指輪は入らないけど
いつか私のためにもう一度リングを選んでね















END